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父の薔薇


無事に母は、退院することができました。ありがとうございます。病院で母の個室を見ましたが、確かに「小さな箱に閉じ込められた」とパニックになる気持ちが分かりました。思ったより空間は広く窓も大きいのですが、夜カーテンを閉めたら部屋は白一色に覆われてしまいます。手術前は四人部屋だったのに、術後に目が覚めて夜一人この部屋のベッドだとしたら無理もないと思いました。日本の病院も、先生の音楽が流れ、高麗さんの心模様作品が病室にあれば、どんなに心が穏やかに安らぐことでしょうと、つくづく感じました。病院の方針で今回は開腹手術であった為、しばらくは大事を取ることになりますが、母は家に帰れたことが何より嬉しそうです。たった二日間の入院であってもです。買ってきた二種類のお弁当を二人で分け合い、「美味しいね」と少し口にした母を見ていたら、「老い」とは何かを考えてしまいます。普段は自分の年齢など考えることもなく、いつまでも若い気でいますし元気でいますが、一方で確実に年を重ねていく現実も考えなくてはならないのだと、能天気な自分を顧みました。帰り際に玄関の横を見ると、プリンセスミチコの薔薇の蕾が、たった一輪開きかけていました。私が小学校に上がる時に、この家を建てると同時に美智子様が大好きな母の為に父が植えたプリンセスミチコです。父亡き後も、お仏壇の後ろにあたる玄関脇で母を見守ると同時に、私を出迎えてくれるその薔薇を、「父の薔薇」と呼んでいます。「心配するな」と、帰る私に告げる薔薇に頭を下げました。術後の母の通院は、思った通り十二月二十四日でした。そして、指定された時間は盛岡のコンサートに間に合う時間でした。思いがけないクリスマスプレゼントを頂いた、この導きに感謝いたします。重ねてお礼を申し上げます。ありがとうございます。

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高麗恵子ギャラリーにて