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茶色の音響


(いつもそうなのだが)昨夜のコンサートは、これまでとは全く違う体験であった。「覚醒」でもなかったというのは言い過ぎかも、しかし、「癒し」ではなかったし、「意欲充満」でもなかった。なにか開催そのものが危ぶまれるような、参加者にも事故や支障が降りかかるような、特別なコンサートの開催であったからか。(双子の姉妹も、直前に体調不良を理由に参加を断ってきた。)わたし自身は、もう何も考えず、意識も向こうにやり、「行く」ことだけを思っていた。とにかく、「原点」に行くだけと。
先生の着物の茶色が印象的で、演奏されるピアノの音まで、派手でも地味でもない、新しい感覚の「茶色」に目に移った。わたしの好きな緑や青ではなく、嫌いなピンクや赤でもなく……。そして、苦境を越えねばとか、これから頑張らなくてはという意識の向こうに連れて行ってくれる音響だった。そして、それで安心だった。ここから生きて行けばいいのだ、という肯定感に酔っていた。
すると、前の席の女性に膝を突かれたので、驚いて、目を開くと、非難されるような顔。べつに音を立てたわけでもないし、体をゆすったわけでもないので、驚いたが、その人には「ノイズ」だったのだろう。わたしは、いてはいけない場所にいるような戸惑いと寂しさを感じ、身を固くしていた。(その人には申し訳なかったが、どうしようもない。)
第二部も「異世界」で、「無意識」の原点復帰にいた。きっと「彼方からのある何か」に出会っていたのだろう。そして、孤独感と寂寥感もあった。しかし、終了後、出口で、高麗先生に、満面の笑顔で挨拶されて、飛び上がるほどうれしくなった。増水した用水路を元気に渡って帰った。ありがとうございます。

 

 

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