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涙ぐむ母親


学校の「国語」は、”大変良い”で問題ないのだが、塾の長文読解の記述が苦手で成績が上がらない、という小5の男の子が母親とやってきた。それで、その長文問題なるものを、一緒にやり直してみたのだ。女流作家のエッセイで、「リスは。文庫」という隠喩をテーマにした文章。リスは食べ物を食い残しては、それを地に埋め、結局それを忘れてしまう習性があり、そのように便利で、ポケットの入る文庫本も、いつか読むのを忘れてしまう。ところが、息子にそのことを言うと、「いやちょっと寝かせておいたのだ。」という返事。この「寝かせておく」とはどういうことか説明しなさい、というような設問があり、かれは少し見当違いな答え方をしてしまっている。「短い時間でさっと読み、隠喩を説明するなんて、大人でもできないことですよ。」と言いつつも、段落ごとに内容を抑え、比喩ごとに共通するものを確かめ、あるいは、その言葉から全く別の話題に触れたりして、丁寧に教えていくと、かれの目が輝き、表情が豊かになり、なぜ点数にならなかったかを納得して、すっきりした感じで、実によくしゃべる。

「じゃあ、今日はここまで。丁寧に読み直し、適切に記述するトレーニングを続けよう!」と、レッスンを終えると、別室で聴いていた母親が涙ぐんでいる。「先生、ママが泣いている!」「どうされましたか」「いや、この子がこんない楽しそうに学んでいるのは初めてなので……。」――学校にしろ、塾にしろ、ひとり一人に丁寧に向き合い、話し掛け、言葉を拾ってやり、転がしてやり、遠くに飛ばしたり、思い切り蹴飛ばしたり、するような楽しい「国語」の授業が少なくなったのだと思う。それを非難するのでなく、基本的な「国語」の授業(読む・書く・聞く・話す)を一層進めていこうと思った。

 

一昨日の応用講座で、「愛は言語以前からある。」「対象になる言葉を使わない。」「国語教師のこれから任務」について、認識を深め、意欲を高めることができた。そのうちの二つ目について、知人がわたしの詩や文章は、「目的至上になっていない言葉の“善良さ”を感じる。」との感想メールを送ってくれたことで、自信を深めた。そして、三つ目が、この「楽しい国語レッスン」で、前進を掴めた。酷暑と冷房のせいで、すっかり「鼻かぜ」に。でもおかげで元気にやっています。

(2023.7.20.)

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