母の意志
「こんなことしていたら、100年経ったって歩けやしない」特別養護老人ホームのスタッフに放った、母の強い言葉に驚きました。先週に引き続き、母の書類と夏物の洋服を持って今日面会に行きました。「家に帰りたい。ここは嫌だ」から始まり、車椅子で1人では生活ができないこと、せめて歩けるように足を鍛えなきゃと瘦せ細った足に触れると、「寝てるか車椅子に座ってるだけじゃ何にもならない」と云い出したのです。「摑まるところがあれば伝わって歩ける」と今にもやりかねない勢いの姿を久し振りに見て、スタッフの方をお呼びしました。ベッドから車椅子に移動すると「手を貸して。歩く」と云う母に、彼女は「専門職じゃない私はできないので、休み明けにリハビリの担当者に伝えます」と答えました。ここまでやる気になった母の気持ちを私は活かしたく、先ずはリビングまで車椅子で行って、テーブルに手を乗せて立ち上がるようにお尻を上げてみよう」と提案しました。母は私の目を見て頷きました。「車椅子の足乗せを外して」と自ら指示する母。テーブルに手を乗せると高さが高いと判断した母は、車椅子の手すりを持って立ち上がろうとお尻を浮かしました。骨のように細い足で踏ん張る姿にすごいと心の中で叫びました。「今みたいに少しずつやっていこう」思わず小さな肩に手を置きました。スタッフの方も母の思いを担当者に伝えると約束してくれました。10分足らずの時間で母は私にやって見せたのです。母が伝わり歩きができると云った時、私は正直疑いました。そんな気持ちを察して、「疑うならやって見せる」と云い切った母の強い意志を目の当たりに見ました。2年前の6月に母が突然倒れてから半年後「お家に帰ろう」プロジェクトで退院した日が蘇ります。あの日、母は皆さんの前で本当に自分の足で伝わり歩きをして見せたのです。来月の面会で母に会うのがとても楽しみです。帰り際に「またね」と手を振ると、脳梗塞で麻痺した左手で手を振り返した母。その表情はとても美しく、いつもより自信に満ちていました。生きる意欲は強い意志となり、人間を突き動かすと母から学ばせていただいた今日です。私もグダグダしている場合じゃありません。ありがとうございます。