手紙
今春、貴殿と同じ年で、宮大工の樋口武さんが亡くなった。
ひとり暮らしで三年間、病と付き合っていた。
夏、パイプで組んだ仕事小屋が、昨冬の雪の重みでつぶれた。
片づけに行ったら、素焼きの土人形が山のように出てきた。
お元気でいてください。
新潟の知人が、こんな手紙を添えて、お米を10キロ送って来てくれた。
かれの作るコシヒカリ”権八米”は、炊けばふっくらとしておいしい!
かれとは、妻有郷の民謡調査に案内してもらった。
古い夜這い唄、「庄内節」の最後の伝承者を、一緒に会いに行った。
♪辛抱してくれいましばらくは長く白歯にしておかぬ
かれとは、八海山・中岳・駒ヶ岳の越後三山や荒沢岳へ行った。
そのときも、単独行のわたしを放っておけなかったのかも。
かれとは、アナーキストの詩人向井孝さんの紹介で知り合ったのだ。
「ただ飲む会」を開催する、NTT職員を兼業していた青年だった。
米を作る、食料を得る、自分の手で。これが基本で、今もコメを作っている。
しかし、わが家も私の代で米作りはしまいになりそう、いたしかたない。
集落の専業農家も6軒に。作付けができない田は組合に。でも手が足らぬ。
除草剤を撒かれた畦道は、秋でもないのに、茶色く枯れる。痛ましい。
わたしの「孤老」と「体」を気遣ってくれるのは、うれしいがさびしい……。
かれの「誠実」と「絶望」とが伝わってきて、かなしくてさびしい……。
(9/20)