魂
途轍もないはじめての経験でした。ここにきてもまだ枠があることを思い知る、新しい経験に驚きを隠せませんでした。
演奏が始まると丸い光が体内に入り どんどん広がっていき、ずっと抱かれているようで、子宮にうずく光を抱え女神の懐にいるような安らぎに包まれました。叫び出したいような心の内、覆われていたものが一つ一つ剥がれ、回転する宇宙の中心、時のない世界でした。覆いが解かれ、どんどん剥がれていく中で生まれる言葉、魂の表現に他ならないように感じてなりませんでした。
素通しに透き通るような思考の中で、過去に見た現実との境のない3回の夢を思い出しました。魂の時代に、熱く 膨張する胸からは表現されることなくして道はないように感じられてなりませんでした。そのうち2回は高麗さんの夢 最初の1回は小学生の頃にみた私と母の夢のはずでした。1枚の高句麗伝説のチラシに出会うまでは…
そのチラシは五女山城の石垣 そこには、深い森の中 木漏れ日差す光景…で始まる 詩がかかれていました。どうして私の夢の中の光景を高麗さんはご存知なのだろう…そう感じ、私は 夢の中の光景を詠んでみました。
陽だまりの中に母がいる
母の元にたどり着こうと
お母さん 私を置いて行かないでと力の限り叫んでも
遠ざかる 母の元にはたどり着けない
暗い森の中にひとり
目が覚め 私はどこにいるのかわからず 必死に 母の姿を探しました。やっと見つけた母に抱きつき ずっと一緒だよね と泣いてしがみついていました。
それから20年近く経ち、 同じ場所で遺体となった母を発見しました。事態を受け止められず号泣する私に救急隊員の方の言葉のぬくもりだけが残りました。
自殺か他殺か自然死か現場検証が始まり、 法律で裁かれることがなくても罪の意識が消えることはありませんでした。どうして風邪をひいた状態で母の元に戻ってしまったのだろうと、私が殺しましたと言った方が気持ちが救われる気がしました。自分の存在を許せないその気持ちが、朱豪様の愛する母へ 悲しみしか残せない 自分へのどうしようもない悲しみと重なり、先を創るよりなかったその心の痛みが流れ込む気がしました。
遺品を整理していると、アルバムの中から1枚のセピア色の写真が飛び込んできました。叔母の口から知る真、満州よ あなたのお母さんはそこで生まれたのと…。死ぬまで母の口からは語られることはありませんでした。
打撲のような胸の衝撃が今なおよみがえる、途轍もない経験、解放の時をありがとうございました。