身に染む秋の空
(今にもしぐれて来そうな秋の空を窓から見ていたら、そぞろ悲しくなってしまった。こういう時は、詩を書くのにかぎる、と思って。)
秋の悲しみ
あの連中が経験している永遠の悲しみ、永遠の不安や心配事に
いったいどんな意味があるというのだ、とイッポリートが叫ぶから
いかにも時雨が来そうな秋空が悲しく、身に染みてしまった。
そうドストエフスキーの『白痴』を読み返しているのだが、
諸事にかまけて遅々として進まない、けれど考えさせられる
大事なのは生命なのだ、とかれはすぐ後で書いてもいるし
向かいの美容院のおかみさんが、わざわざ声を掛けて来る
一人暮らしの老人は、民生委員に伝えて、見回りを受けるべしと
おかみさんの方こそ、障害のある娘を抱えて、必死なんだろうけれど
人間、人とのかかわりを止めてしまったら、変になってしますよ
今朝、壊れた洗面台を交換に来た男もそんなことを言っていた
身寄りのない一人暮らしの老人は、返事に窮することばかり
身に染む秋の空、人の情けや優しさが恋しいのかも
ただまだ受け身にはなりたくない、孤独のままの自由がいい
体調のすぐれない浪人生や不安一杯の娘さんを助けてやりたい
やがて来る冬の厳しさに堪えられそうはなくても、いいではないか
余命二週間のイッポリートでさえ、「嫌悪」を越えるべく戦っている
小さなわが身の安心より、この空を覆う秋の悲しみの方がいい
(やはり気持ちが軽くなりました。明日も頑張れそうです。)