詩:豊岡にて
豊岡にて
豊岡高校、12月16日、3時、教室の窓の向こうは、大雪で、今も降り続けている
まず「五里霧中」の意味を尋ねる――ゴリラがバナナに夢中の写真を見せながら
文学とは? 「進路ガイダンス」の講演に参加した高校一年生は、戸惑っている
但馬の地方色と県立校らしいまじめさが、その表情に溢れ、やっと微かにほほ笑む
今日みたいに何も見通しがきかない、君たちみたいに、どこへ進むか迷っていること
しかし、道は聞いてもダメなんだ、自分で見つけなければ。その考えの参考までに
久しぶりに気動車特急「はまかぜ」に乗って、生野を越えていくと、もう銀世界
昨日、人はなぜ旅に行きたがるのかと思っていたが、やはり旅の気分はいい!
もうすぐ豊岡というところで列車は立ち往生。上りが動物と接触したと点検中とか
降りしきる雪の中では丸山川も望めないし、それこそ五里霧中で、不安と焦りが
幸い30分遅れで豊岡に、駅前でやっとタクシーをつかまえ、学校に駆け付ける
ここらは雪が降れば必ず何か故障が起きますよ、と運転手は気にもしていない
つぎは、この「ゴリラ」と「人間」との大きな違いを三つ挙げてみよと言う
前の目の涼しい男子が「火を使うか使わないか」と言う、やっと声が出てきた!
うむ、いい答えだが、もう少し別の角度から? そう、人間の「言葉」ですね
単なる記号的な使用と違って、抽象的、また内面・気持ちを伝える言葉の使用こそ
あと二つは、「時間」「お金」。三つとも持っているだけではだめで、使わないと
そこで、文学が生まれ、文化が育まれ、複雑な「言葉の森」に。そこへ行くのだ
でも、「言葉」と「モノ」は、イコールではない。それをつなぐのはあなた自身なのだ
いったい、「リンゴ」という言葉が先か、果実の「存在」が先か、考えてほしい
女子も男子ももう夢中になって、こっちを見たり、ノートに書きつけたりしている
そう言葉について考えることがまず第一歩、日本語について、言葉の感化力について
高校一年生には少し難しいことかも。しかし、頭を使ってよく考えるきっかけにはなろう
今はみんな打算と虚偽の中に生きている、この子たちには「ほんとう」を追求してほしい
雪は一向やまず、タクシーに分乗して駅へ。それでも列車は定時運行していた
その普通列車に乗り込んでくるのは、もう高校生ばかり、いろんな制服が混じっている
各駅ごとに高校生が入れ替わり、ホームの雪を友だちに投げたり、笑いあったり
一様にマスクはしているが、その表情は生き生きとしていて、どこか頼もしい
思わぬドカ雪の中にあって、見通しがきかない世の中にあって、かれらが希望なのだ
国府、江原、八鹿、養父、暮れゆく但馬の帰路、散文的な車内にあって、心温まる