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詩:盆踊り


盆おどり        

駅の近くのお寺の門に「盆踊り」の張り紙を見て

あまりの酷暑の街に似合わぬようにも思うのだが

ふと体が緩み、魂のゆらぎのようなものを感じる

郵便局まで速達を出しに行くだけの用事だったが

あてもなく街歩きを楽しもうという気持ちになる

 

盆踊りと言えば、「河内音頭」。幼少期の思い出

庭の向こうの野面の彼方から聞こえてきた歌声

あれは出入りしていた植木屋さんたちの村から

わが家の文脈から遠く離れた在地の人びとの声

でもなぜか、少年の心に響き、引きつけたのだ

 

盆踊りと言えば、「なにゃとやら」。大正期のルポ「清光館哀史」

ナニャトヤレ、ナニャトナサレノウ 歌垣の残余と生存の痛苦

柳田国男の秀作、体験と考察と詩情がない交ぜになって美しい

こういう文書を書いてみたいと思い続けて、全国の甚句を訪ね

盆の夜の解放の、人々のため息のようなものを、いまも感じる

 

盆踊りと言えば、「大の坂」。新潟県堀之内町の一夜

はじめて踊りの輪の中に入った25年前の夜を思う

秋田県の「掛唄」の源流、鹿角「大の坂」に出会い

江戸中期の流行と、一夜の男女の愛の高揚とを知る

雪の堀之内公民館で研究発表し、小国の知人に会う

 

ずいぶん遠くまで来てしまった、と先日誰かが歌っていた

ずいぶん離れてしまった、お盆の夜と踊りと唄と風俗から

孤老の身と、経済的困窮と、多事多忙とがいけないのだが

なにまた盆の夜の文化について、一文をものしたくなった

酷暑の街の一枚の張り紙が、わたしの魂をくすぐったのだ

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東京高麗屋にて
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