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言葉が光るとき


「これはいい授業!これからに役に立つ勉強だ!」
Sくんが、講座終了後、片付けを手伝ってくれながら、そう言ってくれたのがうれしかった。その言葉が光り輝いて、わたしの憂さを一変に取り除いてくれた。
医学部をめざす高三生への小論文指導の4回目だった。「スポーツ・ドクター」を目指すSくんは、最初、命題文すらあやふやで、自分でも「なにが言いたいかわからん」とつぶやく始末だった。で、先ず書く意欲を持たせるために、わたしの独自のエクササイズ、「リンゴエチュード」を紹介し、自分の体験として、嘘でもいいから聞かせるように語ってご覧、と指導。つぎに、ネタ本を用意しておくのがいいと、戸谷洋志の『親がちゃの哲学』を読むように言う。明るく人懐っこく、いかにも裕福な家庭育ちで、素直で健全な感性の持ち主に見えるかれに、問題意識を喚起するためだったさらに、多くの人と出会い話し合うことの必要を熱く語ったところだった。
 なんとかれはその本を買って読んできていたし、「出生前診断に厳しい条件を付けるべし」という主題と、戸谷さんの本の引用までして、根拠らしきものを言おうとしていた。わたしは、その素直な努力がうれしかった。その上で、聞いたかれのつぶやきだけだっただけに、胸に染み込むものがった。
 小論文の書き方や誤字脱字の指摘を含む文章の添削指導などをあまりやらないで、書いたり話したりすることの喜びを熱心に伝えようとする。「知る」ことより「考える」醍醐味を共有したい。新しい生き方にともに進みたいのだ。別の学校で、「先生の授業は、余談や雑談が多くて楽しくやれる。」と振り返りに書いていた女の子もいた。(いえ、その余談こそ重要なんです。雑談こそ大切なんです。)フォーマルな語り口、問題のない表現こそが重要であることは否定しないが、ともすれば失言や禁句になってしまう、その一歩手前で分かり合える共感覚が一番重要なことだ。Sくんが心を開いて接してくるから、こちらも踏み込んだことが言える。そして、心に響く言葉に出会え、生きているのが楽しくなるのだ。
 昔、その人が淹れると、コーヒーが美味しくなる経験をしたことがある。また別に、その人と歩くと、ちっとも疲れず急坂も難なく越せる体験をしたことがある。その山男は、「あなたとなら楽しく歩けると思いましたよ。」と言って去って行った。「心の薬になる言葉集」のような本をよく見かけるが、それはあくまで記録であって、絶対にそうとは限らないと思う。同じ言葉でも、掛ける人やコンテキストで左右されるのが真実だ。要は、こちらの感性を常に磨いておいて、言葉の発する光のようなものを受け止め合うことなのかもしれない。Sくんのつぎの課題が、「いのちを含んでる言葉」について論じさせるものなので、わたしの命が輝いた経験を書き留めておきたかったのだ。(6/29)

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