母
先日、「家族の協力無しには支えられないので、娘さんにもオムツ交換を覚えてもらってやって欲しい」と、ケアマネから連絡が入りました。その為にヘルパーさんの時間に合わせて朝早く実家に帰ったのですが、時々首を傾げたくなる時があります。お金を払っているお客さんは私たちのはずなのに、何だか立ち位置が逆になってこき使われているような気になるのです。もちろん母の為にオムツ交換を覚えるのはいいのですが、割が合わない感がするのは言い方の問題なのでしょうか。オムツ交換を教えてもらっている時に、母の左手首に大きな痣があるのを見て驚きました。どうしたのかと聞くと、「そういえば、気づいたらありました」と女性職員があっけらかんと答えます。母に聞くと、ブザーをお泊まりのベッドの柵の外側に落としてしまい、拾おうとして手を動かしていたと言います。麻痺した左手なので、柵の間で何度も打ちつけてしまったのでしょうか。その青黒い大きな痣を見ながら、理由も聞かない人たちなのかと疑惑が生じました。その後、「トロミ剤は買ってくれましたか」と聞かれたので、「母は私と食事していても普通に食べられるのに、本当に必要ですか」と聞き返しました。あんなに病院で嫌がっていたことを伝えているのに蒸し返すのかと、腹が立ったからです。それが分かったのか、「いつもではないけど時々咽せるのでトロミをつけると、喜んで召し上がっている」と言い直しました。あの大きな痣を見て見ない振りをするいい加減さに加えて、自分たちに都合よく責任を負わない態度が透けて見えました。腹が立つというより「今に見ていろ。母は絶対によくなるから」と気持ちが奮い立ちます。退院した時は、ありがたいプロジェクトの仲間だと思っていたのですが、こんなものなのでしょうか。「最初はいいかなと思ったけど、どこも同じ」母の言葉が蘇りました。腹を立てても損なので、学ぶことは学びつつ、トロミ剤も言われた通り買いました。先ずは元気になるのが一番です。その後、いつものように食事の準備をしたのですが、ついお味噌汁を冷まさないまま出してしまいました。すると母が「煮立っている」と言うので笑ってしまいました。「ごめん、ごめん。少し冷めるまで待っていて」と言うと、「これは何」とお皿の上を見ています。「胡瓜の浅漬け」と答えるや否や、ポイと胡瓜をお味噌汁の中に突っ込んだのです。「何やってるの」と驚いたら「腹が減ってるから、何でも突っ込んで冷ますんだ」と平然と答える母は、やっぱり強者でした。なるほどと感心しながら、色々突っ込んだお味噌汁を美味しそうに飲む母を見て、何がトロミ剤だと可笑しくて胸がスッキリしました。いつから母は、「お腹が空いた」でなく「腹が減った」になったのでしょうか。今回も笑わせていただきました。絶対に負けるもんかと誓います。