新しい靴を履いて
青い靴を履いて
宮崎隆(2022.1.19.)
新しい青い登山靴を履き、かれは家からまっすぐに山に登っていきました。かれの家は神戸の深江の海の近くですから、裏山から六甲連山に繋がっていけるのです。蛙岩を経て、風吹岩に至ると、冬の展望が開け、辺り一面を見晴るかすことができました。そうすると、かれの鬱屈した気持ちはいっぺんに解消したのでした。かれは、苦境の中で、新しい靴を買ったり、のんびり山に出かけたりすることを、何かいけないことのように思いなしていたのでした。そんな屈託は遠くに飛んでいき、「いま」を楽しみができたのでした。かれはいつも山歩きをすることで、「正気」を取り戻し、元気に生きてきたのでした。
青い空から綿雪が舞ってきます。その一つの雪片がかれの貌に触れたとき、かれは、天使からのメッセージを受け取りました。それは具体的なプレゼントではなく、決して目には見えないけれど、かれを支えてくれるものでした。もう東おたふく山からは、真っ白な雪道もあり、新しい靴でキュッキュウと踏んで歩いていると、かれはとてもうれしくなりました。いま、いろいろと悩んだり困ったりしている人に、少し山歩きをすればいいのにと言ってやりたくなりました。
【『小川未明童話集』の「さかずきの輪廻」(大人向きの童話とか)の一節に、「しかし、また、人間の努力というものが、けっしてむなしくならないように、真の芸術というものがが、永久に、その光の認められないはずがないのであります。」とあったことに感激し、彼の文体をまねてみました。】