幸せな麻婆豆腐
母が緊急搬送された病院の廊下で待つ時間は、永遠に時が止まったかのようでした。目の前を血の気のない若い女性が運ばれる姿を見て、思わず自分が突然倒れた時を考えました。母も同じで、何でこうなったのか、このまま死ぬかと思ったそうです。意識があるのに体が動かず、誰もいない一軒家のトイレの床で怖かったと思います。虫が知らせるように、生命拾いしました。医師の説明を聞きながら事実を受け止め、私の頭がフル回転していました。書類を渡されたものの私以外の連絡先が書けず、顔が浮かんだ方に即お願いいたしました。直感はすごいです。翌日、入院に必要なオムツ等を買い込んで、実家に入るや否や立ちすくみました。閉め切った家は、昨日のままでした。換気と床掃除と荷物準備と直ぐに体が動き、ありがたいです。躊躇なく引受て下さった方と、雨の中タクシーを飛ばし病院に向かいました。面会時間は一人だけ15分のところを、無理言って二人15分にしてもらいました。母の力になると分かっていました。目は閉じたままですが、私の報告に対し、大きなはっきりした声で「ありがとう」と言う母に力強さを感じました。不意に母が「麻婆豆腐食べた」と言うので、「あれっ」と思いましたが「すごいじゃない。美味しかった?」と私もつい嬉しくなって聞き返しました。「美味しかったぁ」すごく嬉しそうに笑って答える母に私も一緒に笑いました。看護師さんに後で聞いたら、今は絶食だそうです。更に吐くので水も飲ませてもらえないのです。夢を見たのでしょうか。嬉しそうに笑う母は、かわいくて幸せだなと思った瞬間、ふと先生が一緒にいて下さっているのだと分かりました。同行して下さった方にも「頑張る」と、そして私のことを「くれぐれもよろしくお願いいたします」と、はっきりと大きな声で伝えたそうです。愚図愚図していられません。私も明るく元気に、母に負けないように働き、動きます。今、京都に向かっています。今日から始まる京都コンサート、迎賓館へと続くのです。ありがとうございます。