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「温泉にでも行ったら」


今日学校の授業中に携帯電話が鳴ったので、びっくりした(いつもは電源を切っておくのだが)。電話してきたのは、その学校の三年生で、「もう思い切って温泉に行ったら、すっかり“闇”が落ちて、すっきりし、またやる気が出てきました。先生はすごい!」と言う。かれはクラストップ級の成績の生徒だが、推薦枠入試をけって、あくまで自分の望む京都の大学文学部を受験したいとがんばっているのだ。しかし、親にも相談せず、担任の指導も拒否し、わけのわからぬ文学談義を言いふらすものだから、友だちからも離れ、孤独な戦いを強いられる結果に。少年らしい理想を求め、学問の世界に憧れるのはいいが、現実からついつい浮いてしまい、その気持ちの浮き沈みは相当に大きいようだ。で、二日にあげず、わたしのところに電話してくるのだが、(5分も話すと気が楽になるらしいが)ときに死にたくなるくらいの絶望と不安に襲われるらしい。一昨日などは、「もうだめだ!」「なにもかもいやになってしまった。」と繰り返すので、「受験生はだれでもそんなもの。そんな時は、思い切ってお風呂に行くとか、美味しいものを食べるとか、山歩きをしたらいいよ。わたしもそうしていろいろ苦境を乗り越えてきてるから。」などと話したのだった。ほかに、「とにかく書き出す」「日記をつける」「長い手紙得お書いて送る。」「人に会い、話を聴いてもらう。」などいろいろあるが、たいていの人は、なぜか実践しない。だから、かれが早速町の温泉に行って、やる気を取り戻したことは、わがことのようにうれしいのだ。カンニングしたり、人を刺したりするより、ずっとずっとましである。

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