「敬老の日」と登山
曽爾・兜・鎧岳行
葛(かずら)なる鎧が岳に来てみれば
そよ吹く風のくさずりの音(西行法師)
室生火山群が作った柱状節理の奇岩絶壁は、西行ならでも人の気を引くものがある。無常を越える自然の意志のようなものを感じ、眺めているだけで、存在の奥義に近づけ、体の芯がしゃんとする思いがする。かねて一度行きたいと思っていた兜岳・鎧岳に登ってきた。
曽爾村の横輪からの行程は4時間ほど。道は急坂の連続ではあるが、岩場を通過するのではないので、少し期待がそがれる。しかし、鎧が岳の奇岩絶壁は、木の間越しに迫り、改めて、その鎧の草ずりにも見立てられる姿に圧迫される。「しっかり生きていくのだぞ!」と激励されているようにも感じる。それで歩を速めて、登っていくと、5、6歳の男の子連れの父子に追いつく。山登りが気に入りだしたその子は、わたしに負けじとすぐに近づいてきては、父親にたしなめられていた。兜岳の頂上(920m)で昼休みする父子を尻目に、急坂を下り、いよいよ鎧岳に登っていく。杉の林の上の方に稜線が見え、ますます気持ちが高揚し、日常の煩雑や苦労が遠くなる。健康のためとか、ボケ防止とか、頭がうるさいが、歩くことの喜びを体が感じているのだ。鎧岳山頂(894m)には、「南進危険」とあるので、ちょうど絶壁の上にいることがわかる。アイスコーヒーを飲み一服したあと下山。途中で親子連れに合う。「ほら、さっき会ったお兄さんだよ!」と父親の言うのが聞こえ、うれしくなる。“お兄さん”に見えたことがうれしい!
今日は敬老の日とか。65歳以上の高齢者は3617万人と過去最高多となり、高齢化率は28.7%で、これも世界最高らしい。高齢者の就業者数も892万人という。わたしもその一人だ。先生は、つねに「年齢なんか関係ない!」とおっしゃっているが、このところ、「老い」のことが気になって仕方ない。若く見られたいだけではなく、この元気さを維持できるかどうかが問題なのだ。しかし、SDGs(持続可能な開発目標)というのも、なにか嘘くさい。人の元気さをかってに決めつけてほしくないものだ。わたし独自の、まだだれも実現していない元気な高齢者ライフをめざしていこうと思う。やはり奇岩絶壁は勇気を与えてくれる。(2020.9.21.記)