鉄砲百合
迎賓館コンサートの為に、初お披露目となるマーブリングの着物を着付けして頂いている鏡の中の自分を見ていて、なぜか嬉しくて笑いしか出ませんでした。「へぇ~」と驚きながらも、それは正に自分の姿でした。眺めていた着物とは違い、自分の身体に寄り添う着物は肌感覚で気持ちよく、静かに湧き起るものを感じながら比叡山に向かわせて頂きました。
前半の演奏では、私の中に、いえ一人一人の中に打ち込まれている、あらゆるものの杭が見えます。流れを、動きを打ち止める無数の小さな杭。それらがすべて解き放たれていきます。全放流。大きな光流となり宇宙空間の流れを作るかのように美しく見えます。新しい生命の流れ。毎朝、エゴマオイルを入れた先生の器に、先生が焙煎されたコーヒーを注ぐ時に見える、あの美しい光の放流の展開が見えます。演奏が終わった時、今日のコンサートが終わりバスに乗ると思ってしまった程、満ち足りた前半でした。
休憩時間に眺めた木彫りの梟さんは、賢者たるお顔で両耳が鋭く立っていて、精悍な表情であります。この後は何が・・・と考えていました。先生が目的管理と仰った時、先程見えた無数の小さな杭はこれだったのかと納得しました。時間を区切り、コマ割りをしていくものが外されたから、満ち足り安堵したのだと分かります。
高麗さんが「朱蒙様」と、即座に先生が「よぉし、やるか」と仰った時、すべてが決まったと分かった瞬間に、言いようのない喜びが生まれました。第一音、第二音、研ぎ澄まされる空間、全神経が活きる生命感覚を経験しました。原野に一人立つ朱蒙様と自分が同じ場に居るようです。動く、生命躍動、国創り、強い、愛・・・次々と言葉が生まれ、先生のピアノが教えて下さる展開は、すべて素早く動く動きなのだと分かります。突然その展開の中、私は、ここになぜ集っているのか。この着物を着て、なぜここに座っているのか。朱蒙様のエネルギーの中で、問い続けていました。今日この着物を着て参加できたことのお礼を高麗さんに申し上げると、「最高の礼儀」と仰って頂き、更に「ペンダントもよく似合う」とお褒め頂きました。高麗帝国の印であります。喜びに溢れながらも、先程からの問いを胸にバスが発車しました。途中バスが止まった時、外に目を向けると枯れ野原の中で、一輪の鉄砲百合が風に揺れていました。先程の、原野にたった一人立つ朱蒙様の姿を見たかのように、鉄砲百合に強さを見ました。なぜと問うているのがおかしいと気づきました。集ったのです。国創りの一員としてここにいるのだと、風に煽られながらも前を向く鉄砲百合に教えられました。その後に目にした夕焼け空は、迎賓館で経験した存在がそのまま現れていました。2019年最後の素晴らしい迎賓館コンサートを、ありがとうございました。