母
迎賓館コンサートの翌日、突然母のお見舞いに行こうと思い立ちました。階段から落ちて、腰が痛くて歩けないと泣く母の身代わりにはなれません。毎日電話で声を聞く事しかできず、ごめんねと心の中で思っていました。母の大好きなお花をたくさん買って、元気になってもらおうと両手に抱えて帰りました。母の驚いた顔の次には、直ぐに鋏でいそいそと嬉しそうに花を生ける姿を見て嬉しくなります。と同時に、急に年老いて小さくなった母を見て、胸の奥がキュッと痛みます。自分のこと以上に打ちのめされそうになりました。穏やかに時が流れてくれますようにと、思わず願います。「明日はタクシーで、父のお墓に一緒に行こう。」と言うと、「連れて行ってくれるの?」と泣く母を見て、私も泣きたくなりました。父が亡くなってから八年二ヶ月、毎朝ほとんど欠かさずにお墓参りをしていた母にとって、お墓に行けないことがどんなに辛いことか。今回がきっかけで、お墓まで歩けなくなることだけが今の私にとって心配ですが、時間が解決してくれると信じています。
母と別れた帰りの夜道、見上げれば星がキラキラと輝いています。公園には夜桜が枝を広げて、ほの白く輝いています。父が歩けなくなった時、愛犬も歩けなくなった時が浮かびます。また、桜の季節が来ましたねと語りかける時、切なさがこみ上げます。一人見上げる夜桜は、今年は母と重なり涙でよく見えません。たくさんの方たちが、様々な思いで桜を眺めていらっしゃるでしょう。今の時、今まで以上に、元気に明るく、前を向いて生きていく力が必要と、先生の言葉が蘇ります。何より私が元気でないと、母のことすら助けることもできません。体力をつけ、花粉症にも負けているわけにはいかないと、心を新たにしました。