始まり
慌てて家を飛び出しましたが、余裕をもって無事に三鷹の会場に到着でき、胸を撫でおろしました。第一部は「ホール」全体とお聴きし、分かりたいと姿勢を正しました。大きな古時計が時を刻むようにボーン、ボーンと体に響きます。どこからどこに向かって流れていくのか、大きな大河の流れに身を委ねます。不意に子供の頃のシーンが蘇ります。忘れていた、とても辛かった思い出です。輪ゴムをぎゅっと固く手首に巻いて、布団の中で暗闇を見つめていました。隣りの部屋から漏れ聞こえるテレビの音と、両親の話し声に耳を澄まし、次第に冷たくなる掌を感じ、怖くなって輪ゴムを外しました。何が辛かったのか、なぜ死のうと思ったのか分かりません。まだ小学校に上がる前、何の不自由もなく一人娘として育ててもらったはずです。毎晩、鏡に向かって「帰りたい、帰りたい」と呟く私に、「ここはお前の家だよ。どこに帰りたいの?」と自分自身に答えながらも、帰りたいと切望していました。頭の中に浮かんで流れていくシーンは、どれも頭の中に残る古い記憶です。駄目な自分、どうしようもない自分の記憶、流れ去る記憶の中、目を開ければ先生がいらっしゃいます。涙が溢れ出ます。今、この瞬間、先生と共にいる時、風となって私を包む時、全体の風が私を包み込みます。涙しかありません。第一部が終わりました。第二部は「悟る」です。同じく姿勢を正してお聴きしました。突然、体全体の力が不意に抜けるのが分かりました。その時、愛を経験しました。自分がある以上、他人の事は分からないのです。いだきで生きることを経験した時、「始まり」と言葉が生まれました。アンコールでの先生の渾身の演奏に、すべてがここにあり、今に繋がります。ありがとうございます。