国の生まれる風
北の地の空はどこまでも遠くまで広がっていた。私の思いわずらうことなんてこの広い空間の端っこの取るに足らないことのような気がする。言葉が大切なことはわかっているのに、どうしたって暴言より生まれてこないこの心をこの地まで運んできてしまった。湿りきった心。それは霧なのか雨なのか…。暗闇の中で何もみえないようなさびしい場所。目の前の大スクリーンとスピーカーに流れるイラン・『高句麗伝説』はとても遠くの世界のことのように感じる。
湿りきった心の奥に突然音が届いた。最も辛いとき、おしよせる暗い波のさなかでも共に在ってくれたあたたかい存在。暗黒の時、その渦にのまれそうな時も心の奥底で失われなかった光。私はここにいなきゃ!と思った時、心にも体にも一気に健やかな風が吹き抜けて、それまでの鬱蒼とした世界は晴れ渡っていた。我にかえったような心地で、今の時の光明を見る。今の時代にある光は、この世のどんな暗闇にある時でもそれら全てに打ち勝つほどのことである、と。長い歴史が音を立てて動き出すのを感じた。私まで先祖たちが辿った同じ道を歩むところだった。いかりと悲しみに狂って化け物に変化するところだった。遠い果てしない昔の時、化け物と化した人間。どの先祖を思い返してみても何かに呪われているようにしかみえない。女は化け物のようになるし、男はまんまとその世界の餌食になりに行くしで、本当にどうしようもない。長い間、解放などされるはずもなく封に封を重ねて私の代まで辿り着いたように思う。人間の源の世界が拓かれて、全てを受け容れてくださる今。この封印の最後の糸を切ってでも全てを受け容れ生きてゆく。
『魂の語り』麗しい人の御言葉は生きる伝説を語り、私はその詩を全身で耳をそば立てているように吸収しようとする。過去ではない、今ありありと息づく『高句麗』。時空をこえて、今の時を創り続けた方々は美しい御言葉によって今に生きている。その伝説の精神、栄光の輝きにこの身と日本は包まれる。天のさらにはるかむこうの世界はたしかに『今ここ』にひらかれている。はるか昔、まだこの世界の開かれぬ時に生きた人々のどれほど待ち望んだことか。ここで生き、生きつづけてゆくことが私の生命の最も望んでいること。大勢の人のやる気に満ちるかけ声がきこえるような空間。ここにいると、幼い頃の何か大切な記憶がもう少しで思い出されそうな気配がして、同時に頭と体の栓がぬけそうな気がする。
京都での『出会いの一日』から多賀城までの旅路は長い歴史の旅を駆け抜けていました。方舟は、私がつくろうだなんていうまでもなく、すでに出来ていたし、定員もなさそうなくらい大きかったです。今この時すでに在り、そしてどこにでも在り、日に日に進化し美しく在るのです。
夜空の星のずっと先に在る世界。今この地球上にいながら、その世界で生きることが出来る。その時にこの身は、今までよりもずっと広く深く地球に根ざしているようでもある。長い間、人間を翻弄してきたうごめく世界よりもずっと現実的な世界に私には見えるのです。
そんな時代にしけた面してんなよ!と父はすぐそばで笑うような気がするので、闇をも切りさき、いくぜ、未来。いくぜ、新しい世界。