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節分に


昨日、その子の家に入ったら、いきなり豆をぶつけられた。
「鬼は外!」とかれが笑っている。
「そうか!今日は豆まきの日だったか。」
「先生は鬼なんだ!」と応じると、かれがうれしそうに、「これ、食べてみて。」と、煎り豆を一粒差し出してきた。
それを口に含むと、まだ生の味がする。
「先生、この豆は上等な豆なんだよ。おいしいでしょう。」
「ふーん。ただちょっと炒り方が足らないね。生の味がするよ。」
「じゃあ、もっと炒ってあげるよ。」
そうして、かれはキッチンのところへ走っていき、フライパンで何かやりだした。傍にいた母親は、そんなことより早く勉強させたそうな顔をしていたが、私が何も言わないものだから、しばらく様子を見ている風情だ。
テキストや教材を出して、待っているところへ、かれが香ばしい匂いのする大豆を持ってきて、「熱いよ!」と言いながら、一粒私の口に入れてくれた。 「おっ!これはおいしい!」
確かにちょうどよい炒り加減でおいしかった。そして、やっと机に向かったかれと、言葉遊びのレッスンをしながら、勉強に入りだしたのだ。しかし、安心した母親がコーヒーを淹れてくれたので、ついつい話題が「大豆コーヒー」になってしまった。
するとかれはまた、どうしてもそれを作ってあげると言い出す。言い出すともうじっとしていない。「多動症」そのもの。いくら母親が「後にしなさい!」といっても聞かばこそだ。驚いたことに、かれは器用にドリップコーヒーの機械を使いこなし、ウーロン茶のような「大豆コーヒー」を持ってきたのだ。一口飲むわたしをかれが見つめている。「ウム!面白い味だ。」「コーヒーのほうがいいけど」などと笑いながら、飲む。それを見つめるかれの表情は、これまでにないや優しさに満ちていた。子どもっぽい無邪気ささえ見られた。落ち着いて「絵物語り」もやれた。
ふだんは、「登校拒否」「識字障害」などで、ギスギスした感情をぶつけてきたり、自分でも抑えがたい昂揚に苦しんだりしていることがよくわかるのだったが、今回は親子ともども穏やかな時間を共有できた。やっと「橋」が架かった思いがした。5回目のセッションだった。〔2020.2.4.記〕

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京都 八坂より
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高麗恵子ギャラリーにて
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深煎り五女山